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機械学習とか好きな技術話とかエンジニア的な話とかを書く

おすすめのエンジニアリング関連YouTubeを紹介しながらエンジニアとYouTubeについて考える

- はじめに -

最近、所属企業でYouTubeの企画やインタビューを進める事になった。
私の所属する企業は、どのような事柄に対しても説明責任を重視する企業であり、ある程度の合理的な理由付けの上でYouTube上での広報活動をしていこうとなったのだが、実際は「Podcastで良いんじゃないか?」「ブログとリーチできる層は違うのか?」という話が後からも出てくる事が予想できるので、自分の中でも整理と記録を取っておきたい。

 
体感として、特にソフトウェアエンジニアリング業界でのYouTubeに対する評価は、正直半々といった所だろう。
私の認識としては、大きな2つの主張を短く要約すると「YouTube(全般的に)は面白い」「日本のソフトウェアエンジニアのYouTuberが技術の話をしていない」辺りにまとめられる。
  
これはある種実態を表しているとも言えるし、違うとも言える。
 

この事も踏まえ、本記事では、私が日常的に見ているソフトウェアエンジニアリング関連の日本のYouTubeチャンネルを挙げながら、YouTubeの特性や期待効果についてまとめつつ、私にとってどういう技術動画が増えたら面白いかだけを考える記事である。

 
前提として、本記事は、「技術の話をしないエンジニアYouTuber」について触れはするものの、そういったアカウントを紹介するものではない。また、私の企画を考えるための整理なので、海外の技術Youtuberには極力触れない。私個人の考えであって、会社の意思決定を解説したものでもあるべき論でもない。


 

- なぜ技術と動画なのか -

そもそも動画×ソフトウェア技術というのが昔から相性が良かった事はある程度自明である。

例えば、ニコニコ動画全盛期からプログラムした物理エンジンの動画を投稿し、今も活動しているむにむに先生。
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ニコニコ動画全盛期に見たことがある人も多いはず。Youtubeの動画もあいも変わらず面白いので是非見て欲しい。
私自身、ニコニコ動画全盛期、高専の課題の一貫でゲームをプログラムで攻略する動画を作り投稿したりしたものだ。
プログラミングでここまで面白い動画を作り続けられる人といいうのもなかなかいない。

 

同じ具体的な結果が見えやすいゲーム制作のYoutuberも既に幾人も居る。
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特に私もたまにライブストリーミングを見ているHytackaのゲーム制作チャンネルは、ソフトウェアプログラミングの概念からは少し広がるものの、Unreal Engineを使ったGUIプログラミングによって、実際のゲーム開発社が「どのような思想で」「どのようなユーザ心理を想定して」ものづくりをしているかが見えてかなり面白い。

 

動画であることで、技術ブログ等の文字では伝わらない微妙なニュアンスが伝わる。
「このクッキーおいしいよ」という文面から、本気なのか嘘なのか嫌味なのか分からない所が、音声と映像になって情報量が増えることで把握しやすくなるといった具合だ。
また、「作業工程や結果を見せる」という側面でも動画の良さはあると言える。
文字から知ることができない細かな画面操作やノウハウが、時に自分の効率化にハマる要素になり得る。

 

上記のようなYoutubeチャンネルは、どうしても扱うテーマ故に「プログラミングの結果」を見せる側面が大きいと言える。
これだけでは「いやいや、プログラミングは〜」とソースコードをカチャカチャする画面を流すYoutubeチャンネルについての考察が出てくるのは自然であろうから、それらも含めて考えてみる。

 

- どんなエンジニアリングのYoutube動画が面白いと感じるのか -

人間の面白く感じるポイントは千差万別である。
以下は、それらを否定するものではなく、「私自身がソフトウェアエンジニアとして面白いと感じて見てしまう動画」をそれぞれ言語化するだけのものである。

 

主に技術関連の動画の面白さの要点は以下に分けられると私は考えている。

  • 内容が(かなり)勉強になる
  • 見知った人が出ていいる
  • 出ている本人達が楽しそう
  • 出てくる結果が面白い
  • プログラミングを生かした企画自体が面白い
  • 属性が面白い

以下では、この面白さそれぞれを深ぼってみる。

 

内容が(かなり)勉強になる

最も一番に出てくるのは技術的な深み、面白さだと思う。

例えば、個人で再生数の多い所で言えばSatoru Takeuchi氏のチャンネル。記事執筆時点で8割見ていた。
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形式としてはスライドと実演の2パターンで、大学の講義のような形式。丁寧で内容を考えているのがすごくわかる。
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同じ形式では徳丸先生。
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Takami Sato氏のKaggle解説なども動画が上がるのが楽しみである。
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この手の講義に近い動画は、暇つぶしに見ていても悪くないし勉強になる一方で、ライバルも多い。
「企業チャンネル」「テックカンファレンスチャンネル」「大学・研究機関チャンネル」辺りが犇めき合っているので、時間の奪い合いないし、「後で見るを押すけど見ない」という過多状態にもなりがちだと思う(私自身後で見るの数がヤバい)。

NIIだって、東京大学だってチャンネルを持って講義に近い動画を上げてくれている。特定のLabが1チャンネルを持っているパターンもある。
国立情報学研究所 - National Institute of Informatics - YouTube
東京大学 / The University of Tokyo - YouTube
STAIR Lab - YouTube
今のYoutubeの自動翻訳機能があれば海外の大学も…となる。


各言語やフレームワークのConferenceは今や年から年中開催されていて、そのアーカイブがネットに上がる。
PyConJP - YouTubejsconfjp - YouTubebuilderscon - YouTubeyapcasia - YouTubeVue.js日本ユーザーグループ - YouTubehtml5j - YouTubePHPer Kaigi - YouTube、...


IT企業がチャンネルを持っている場合も多い。
Google Cloud Japan - YouTube
日本マイクロソフト株式会社 公式チャンネル - YouTube
NVIDIA JAPAN - YouTube
Cookpad - YouTube
Cybozu Inside Out - YouTube
クラウドエース株式会社 Cloud Ace, Inc. - YouTube
クラウド会計ソフト freee(フリー) - YouTube
DeNA Channel - YouTube
mercari devjp - YouTube
mixi Tech Talk - YouTube

IT企業チャンネルの場合は、講義のような登壇、プレゼン形式の他にも戦略的に色々な企画を出している所が違いになる。
例えば、メルカリ、mixiが動画にしているライブコーディング等は、学び以外にも副次的な効果を幾つか狙っていそうな動画になっている。
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文字では伝えづらい微妙な言葉のやり取り含め、社内の和気藹々とした雰囲気、開発のスタイルを外に伝える事で採用・広報とする形だ。
業務の内容やPC画面など、セキュリティの課題をクリアにさえできれば、プレゼンスタイルの技術動画の間にこういった動画が挟める事は長期的にも良い効果があるだろう。採用の他、社内コミュニケーション増、愛社精神の向上、技術力向上、キャリア辺りがそこに当たる。
後述する「見知った人が出ていいる」「出ている本人達が楽しそう」といった面白さも含めて、良さそうである。

一方、企業のYoutubeチャンネルは、営業に使う資料置き場になっていたり、淡々とプレゼンを上げて視聴者数で悩むパターンもありそうなので、後ろ盾がない分個人やカンファレンス、大学の動画の方が長期的な勉強という側面での価値を生みやすいと言えるかもしれない。
 


その他細かいが、より基礎から学びたい場合は、プログラミング教室の講義動画や塾講師等もライバルに入る。講義動画はよもや可処分時間の奪い合い。戦国時代だ。
このような状況なので、自分の少し上の技術情報、レベルを上げてくれる技術情報の方がウケそうではある(技術以外のトークは別として)。

 

見知った人が出ている

これは、「技術動画の面白さとして本末転倒ではないか」という議論の余地こそあるものの、正直面白い。

「技術の話をしないエンジニアYouTuber」もある種この「見知った人が出ている」から面白い所の極端な形であるとも言える。
例えば私が最近真似したいなと思うのがForkwellのチャンネル。
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「開発者向けニュースピックラジオ」と銘打って、ITに関連した話題に対して特定の分野では名が通るようなエンジニアが話すという内容。例えば最新の動画は「日本Node.jsユーザグループ代表 古川陽介氏」などがゲストだ。高い低いに関わらず、自分と違ったレイヤの人が同じコンテンツに深い知識で語るのは見ていて面白いし、何より「その人の背景を知っている」ので頷きやすい。正直よく分からない人がやっても面白いと感じるのは難しい内容だと思う。


他に見知った人が出て語っているもので、好きなのはBIT VALLYのチャンネル。
BIT VALLY自体は同僚の登壇で知ったが、直近は過去の動画をラジオ代わりに聞きながら仕事を進めていた。
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以下の回は特に豪華な人達なので再生数もうちょっと伸びても良いと思う。
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さらに小さい物まで見ていけば、フォロワーがやっているコーディング放送、技術解説動画などは技術的な深みに関わらず、少し見ようと思ってしまう。技術に関わらず、「面白い事」「話題性がある事」は欠かせない要素の1つであると言える(それが全てではないが10分の1くらいはこれ)。

 

出ている本人達が楽しそう

これもまた「技術動画の面白さ」とは少しズレるが、技術動画として大事な要素の1つであると感じる。

楽しそうにアセンブリを触る人達。
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楽しそうに電源コードで朝食を作る人。
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面白く工学を紹介できる人の方が、やっぱり見続けられるし同じ内容でも見ていて楽しい。
「難しい問題に悩んで楽しい」「工学の純粋な部分が楽しい」など場面は様々であるものの、楽しい所を楽しく見せられる動画は良い。本当にかくありたい。

 

出てくる結果が面白い

「作ってみた」の面白さも大事な要素になり得る。

なんと言ってもプログラミングやら機械いじりは、絵面が地味である。
これは変えられようがないので、「考える」「とにかく動かす」ところに比重を置いて、プログラミングを軽いものにしていくパターンである。

それこそ、冒頭のむにむに先生が、昔からやってみたの動画を投稿している人として有名である。

他で言えば、更新間隔こそ長いが、ゲヱム道館というチャンネルは上手くやっているなと思う。
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プログラミングの解説は短く丁寧に、CLI上に結果を表示して解説もしている。
「結果が見えるか見えないか」というのは、ここでは大きな体験の違いになる。

しかもゲヱム道館さん、ロケハンをしている。偉い…。
準備だけで相応の時間が掛かっていそうだ。パックマンファイアーエムブレムドラクエ等を作ってみる動画も見て、良いシリーズだなと感じる。

 

プログラミングを生かした企画自体が面白い

プログラミングを生かして、地味な絵面ではなく、ためにもなって面白い企画。
Youtubeやる上でもかなり強い要素である。

私が好きなのは、じょえチャンネル。競技プログラミングの問題を目隠しで解いたり、コーディング面接と称してNP完全の問題を解かせたり、プログラミングを活かしながら笑える。
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正直かなり好きなので、この勢いでAtCoder Liveと突然のコラボとか、更に面白企画でチャレンジして欲しい。

関連したアイデアは結構あって、「GoogleなしでTwitterや質問サイトで質問するだけでプログラミング」とか「ドメイン知識が凄い人と一緒に分析問題を解く」とかゲームさんぽ*1よろしく、何かのプロとプログラミングをかけ合わせたりするのも面白いと思う。

企画が面白ければ、新規参入者も見込めるし、チャンネル登録者は動画投稿のモチベーションになり得るので、一辺倒にならず色々やるのが大事なのは自明。

 

属性が面白い

動画投稿者の属性も最後は大事になる。
例えば、VTuberの技術関連動画も少なくない。

AIcia Solid Projectチャンネルは、その中でもかなり大きい。現時点で登録者が1.3万人、内容は「機械学習」「統計」「線形代数」辺りである。
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講義のような動画と比較して全てが事細かく具体的という訳にはいかないが、丁寧に論文引用をするだけでなくシリーズを見ていけば理解しやすくなる構成になっている。何より解説のための編集がすごい。一体何者なんだ…

 
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日経クロステックがやっている。すごい世界観だ。
あまりVTuberの動画を見ている訳ではないが、Xmoaチャンネルは取り上げる題材も面白いので、YouTubeのトップでレコメンドされてきたらついつい見てしまう。

VTuberになる技術が一般化してきた証でもあり、それに対する障壁もかなり下がっているということでもある。

先に書いた通り、この手の動画コンテンツはライバルが多いため、属性や動画自体の品質、ストーリー性で勝負する事も一つの方法であると感じる。


 

エンジニアとYouTube

ここまで、私がチャンネル登録しているYouTubeチャンネルを挙げながら、エンジニアリング関連動画の面白さについて考え、まとめた。

もちろん動画は、良い点ばかりではなく、テキストと違い「コピー・ペーストができない」「箇条書きのようなリストで見る側の意識が飛びやすい」「編集が大変」といった課題が山積みの分野ではある。
一方で、先のプログラミング関連動画などは、リモート社会になる以前、各人が会社の中で教える事で伝えてきたような細かなニュアンス、技術、社会人としてのテクニックが盛り込まれており、肌で感じられる度合いが高いのは分かる人が多いと思う。今後もリモート前提の働き方、勉強会、技術カンファレンス、学会が続く中で、テキストと両者の良いところを切り替えながら、利用していければと思うところである。
諸問題もエンジニアリングで解決されていくだろうし。


何より、技術の表現の仕方や吸収の仕方自体が多様になるのは還元すべきだと私は思う。

おわりに

他にもオススメのYouTubeチャンネルあったらおしえてください

 

追記

*1:医師やデザイナ、気象予報士とゲームを実況しながら遊ぶチャンネル