- はじめに -
このブログの人気シリーズの一つ、「献本されて読んだら良かったので書評で作者に媚を売ろうシリーズ」です。
今回は、あるきっかけで「FINAL FANTASY XV の人工知能 - ゲームAIから見える未来」(以下 FF本)という本を頂く形になりました。
FINAL FANTASY XV の人工知能 - ゲームAIから見える未来
- 作者: 株式会社スクウェア・エニックス『FFXV』AIチーム
- 出版社/メーカー: ボーンデジタル
- 発売日: 2019/06/04
- メディア: 大型本
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私自身の専門もあって、普段はこの手の「人工知能本」と私が認識しているジャンルの本、例えば「よくわかる人工知能」「人工知能ビジネス徹底解説」といった旨の本を手に取る事はほぼなく、ましてや誤った知識を流布する事が多いジャンルでもあると認識していたが、このFF本はまた別の楽しみ方が出来たので、広めても良さそう思ったので書く。
- どんな人が楽しめそうか -
ゲームの攻略本を読むのが好きかつ、プログラミングの素養があると楽しめる本だと感じた。
日々学んでいるアルゴリズムやプログラミングの考え方が、ゲーム開発という現場でどう活かされているのか。どういったツール、環境が使われているのか。
あまり外に出てこないゲーム業界の事情や考え方が知れる、オタク大興奮みたいな書籍。
読むと楽しそうなのは以下辺りか
- CSの学生
- ゲームが好きな人
- ゲームの説明書や攻略本を読むのが好きな人
ただ前提として、昨今流行りの機械学習、Deep Learningの本ではないし、アルゴリズムの本でもないので、これで人工知能を使ったゲームが作れるとかそういう話ではない。技術目的で買うのは厳しい。どちらかというFFの本家技術同人っぽい雰囲気。
筆者のチームの一人として多くの講演等を行っている三宅陽一郎氏の話を聞いた事があるが、AIという言葉の定義自体が、ゲーム業界の内で使われる場合と外で使われる場合で大きく違っている。歴史的背景もあるし、互いに歩み寄っている部分もあるが、統計、機械学習分野と言葉の使い方が違うという雰囲気を書籍内でもちらほら感じるし、念頭に置いて読んだ方が良いと感じる。
ゲームの世界だと昔からAIという単語があり業界内でもある程度理解される概念なので、機械学習系の界隈でよく分からんオッサンが言ってるAIとはまた違ったニュアンスだなという知見。面白かった。 #shibuya_synapse
— ばんくし (@vaaaaanquish) 2017年11月23日
(例えば、幅広くルールベースなものもAIとしてまとめられているし、神経系の理解が危うかったりArtificialと書いてある訳に"人口"が充てられている等、ある視点ではつらい表記は実際にいくつかある)
一方で、FINAL FANTASY XVという壮大なゲームの中で使われる、アルゴリズムや意思決定、実際のプロジェクトの動き、データ解析の一片が外から見られるという機会は、そうそう無いだろうし、自分がコンピュータに触れ始めた段階でこれを読んでいれば、擦り切れる程読んでゲーム開発者を目指したかも知れないと思うほど濃く鮮やかな本だと思う。
- 概要 -
「FFの本家技術同人」と表現した通り、各章を別々の担当者(エンジニアからデザイナー、リーダーまで)が書いている。
そのため、粒度も違えば、各章で「AIとゲームのこれから」のような節があるのが気になるが、近年テック企業が出してる同人誌はそんな感じなので普通か。
全体の概要は以下のような感じ
- 1章: ゲームAI入門
- 大まかなゲームAIの概要と歴史、書籍全体へのpath
- 短いけど読み物として分かりやすい
- 2章: 意思決定ツール
- 3章: ナビゲーションシステム
- パス検索やブロッキングを実際活用してるんやでというお話で興奮する
- 4章: AIとアニメーション
- 5章: 位置検索システム
- マップにグリッドを取って検索する話が簡単に書かれている
- CSで学ぶアルゴリズムがこういう所で活きるって事が実感できて良いと思う
- AI座談会 プログラマー編
- これだけで同人誌1冊いけるくらい面白い
- 6章: 仲間AI
- 7章: モンスターAI
- NPCやモンスターの制御の話を簡潔に
- 8章: 兵士AI
- 7章の続きみたいな話
- 9章: アビエントAI
- 7章の続きみたいな話, 街中のモブのスクリプトを中心に
- 10章: 写真AI
- ゲーム内で撮れる写真機能において、キャラの個性や映えを設計する話
- なかなか他の場面で考える事ないので面白い設定だなと思った
- AI座談会 デザイナー編
- ゲームデザイナーがゲームやキャラの作り方について語っている
- 体験の設計の話はゲーム業界進んでるよなあと思った
- 11章: 会話AI
- 会話をユーザに面白いと思ってもらえるようなスクリプト構成の話
- 12章: AIモード
- 自律的に動くモードを作ってモブに適応した話
- 自律モードを使う事の良い点、悪い点が書かれてあってなるほどなって感じ
- 13章: ロギングと可視化
- ゲームのbackendアーキテクチャとかロギングの話
- フレームレートに影響を与えないようログを落とす
- 統計量を取り異常な会話等を検知する
- ナビゲーションマップを可視化して意図していない壁などを出さないように
- 別で本一冊書いて欲しいくらい興味深い
- 14章: これからのゲームAI
- やっぱ時代的にもディープラーニングできたら良いですね〜的なアレ
- AI座談会 チームリーダー編
- 良かった所メインだったのが気になった
- チームリーダーの考えや工夫、試行錯誤が見えるともうちょっと良かった気もする
私がエンジニアということもあるかもしれないが、個人的には開発視点の話が面白かった。
「あー、ここもうちょっと書いて欲しい」と思っている時点で、この書籍の目的は達成されているのだと思う。
これから先は、SQUARE ENIXの門を叩くしかないのだろう。
昔、ゲームの攻略本を読んだだけで、手に入れるかも分からない剣やアイテムのモチーフを見て興奮したものだが、ゲーム会社が使っているツールやキャラに貼られたメッシュで似た感覚になれたのがとても良かった。
私は「技術書、ブログを書く時は必ず参考文献を、引用を」と常々言っているが、各章で参考文献をしっかり記載している所も好感を持てた。気になる所を追って読めればと思う。
- おわりに -
帯の松尾豊氏のコメントも「ゲームの未来を感じられる」とあるが、本当にそう感じた。
ゲーム業界からこういった技術本が出る事はこれまで稀で、実際のゲーム開発について知る機会というのは(いわゆるWebサービス開発やアプリ開発に比べて)少なかったように思う。
この書籍に書かれているような技術ロマンが新しい火種を作り、またゲーム業界を盛り上げるのだとすると、素晴らしい情報発信である。
機械学習観点では、今後ゲームとの距離が近くなると思っており、ゲーム開発におけるAIの歴史や考え方の発信を享受する事で、また新しい接点に繋げていければ良いと感じた一冊だった。
FINAL FANTASY XV の人工知能 - ゲームAIから見える未来
- 作者: 株式会社スクウェア・エニックス『FFXV』AIチーム
- 出版社/メーカー: ボーンデジタル
- 発売日: 2019/06/04
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